書写の授業基本型@<毛筆編>

                 <はじめに>

「書写授業の進め方の基本型」には書道の技量は全く必要がありません。したがって「だれでもできる授業です。」わずか1時間(45分)の授業、3枚書くだけで子どもたちの字がこんなに変わります。
(左が授業前の試書・右が授業最後のまとめ書き)6年生作品


1時間目(毛筆)
<授業の前>
@手本の準備
手本はなるべく実物大の方が子どもたちにとって学習しやすいのです。小さい手本を見て書くと「字が小さく」なって優劣の差が大きくなりますから、教科書の手本を半紙大に拡大コピーして印刷し準備しておきましょう。※「手本」という語は「基準」とした方が正確ですが、わかりにくいため通称の「手本」としています。以下同様。

A目標を念頭に置く
書写の授業は、文字を整えて書くための原則(方法)を指導要領に沿って計画的に理解・定着させることが大切です。教科書の「単元」に書いてあることが、もちろんその授業の「目標」になります。
例えば単元名が「画間均等」であれば、「横画の多い文字は横画の間隔を均等にして書くと文字が整う」という学習である。もし、教科書掲載の手本が「星」であれば、「日」部分の横画の間隔を均等にすることと、「生」部分の横画の間隔を均等に書ければ、この授業の「目標」は達成したことになる。
小学校・中学校の教科書では1年生から計画的に「文字を整えて書く方法」を扱っているので、教師が「単元の目標」を読み間違えると、その方法を学習しないままになってしまう。また、「単元の目標」をうまく取り扱った場合でも、「画間均等」の目標の他に「折れの書き方も目標に加えよう。」「止めの筆使いも目標に加えよう」・・・と欲張ると、本当に学習すべき「単元の目標」がぼけてしまう。


そこで、授業の事前に「星」の手本から教えたいことを「単元の目標」を中心にし、3つくらいにしぼっておくことが必要です。
つまり、「単元の目標」だけを教えればよいのであるから、後は既習事項から特に学級の課題となっている事項を数点選んでおきます。ただ、目標が多くなりすぎないように留意することが大切です。


<毛筆授業の進め方の基本型> 
それでは、授業前の準備ができたところで、どの単元でも使える「書写授業の進め方の基本型」について述べていきます。
ここでは「画間均等」を単元の目標にした「星」という題材を例として取り上げます。

@本時の「めあて」を確認する。

「今日の学習の<めあて>は<画の間に気をつけて書こう>です。みんなで「めあて」を確認しながら音読します。さん、はい。」

→目で見る、声に出す、みんなの声を聞く等五感にうったえた活動は有効です。しっかり「音読」させましょう。

A課題文字の筆順を確認する。
「<星>という字を課題として学習するよ。さあみんなで筆順を確認しよう。手をあげて。先生と一緒に手のひらを使って空に書いてみよう。」

→この後に「手本」を見ないで「試書き」をします。「手本」を見せないので、漢字を間違ってしまうことがあります。筆順を確認するとともに、誤字のないようにおさえておきます。

B手本を見ないで1枚だけ書く。(ためし書き)
「手本を見ないで1枚だけ書こう。いくら失敗しても1枚しか書けないよ。みんなが書き終わるまで待っていてください。書けたら左上に@としるしをつけておきましょう。」
「半紙を準備します」「墨をつけて筆先を整えます」「親指は横向き」「肘を高く構えて」「よーい、始め」

→誤字防止のために、「手本」は見せませんが手書き文字ではない「ゴシック体」や「ナール体」の「星」を見せても良いです。
→「手本」を見せないことは、子ども達が日常書いている文字の実態を確認するためです。「手本」を見せてしまうとそれは日常の文字でないからです。子ども達がこれまで書いていた自分の文字のどこに課題があったのかを確認させることに役立ちます。

C「文字を整える原則」を発見する
「日」の横画の間隔が等しい「星」(右)と「日」の横画の間隔が等しくない「星」(左)のカードを見せて、「どちらの星が整っているでしょう。」と発問する。


児童:「右の星の方がよいと思います。」
教師:「理由は何ですか?」
児童:「右の星の方が横画の間隔が同じで整っているからです。」
教師:「正解です」
(黒板に「@日の部分の横画間は同じ」と書く)
教師:「他にも横画の間隔に気を付けるとよい部分はありませんか?」
児童:「生の横画も同じ間隔にするとよいです。」
教師:「正解です。」
(黒板に「A生の部分の横画間は同じ」と書く)
「生」の横画の長さが同じ「星」(右)と「生」の最後の横画だけ長く書いた「星」(左)のカードを見せて、「どちらの星が整っているでしょう。」と発問する。
児童:「左の星の方がよいと思います。」
教師:「理由は何ですか?」
児童:「以前の授業で横画がいくつかあるときは一本だけ長くすると良いことを学習したからです。」
教師:「正解です。よく覚えていましたね。」
(黒板に「B生の最後の横画は長い」と書く)
教師:「みんなと一緒に星を整えて書くためのきまりを3つ発見したね。
    今日の授業は3つのきまりをねらいにしてがんばりましょう。」

→「文字を整える原則」については、決して教師が教え込んではいけません。子ども達が「自分で気づいた」「自分で発見した」という活動になるように工夫しましょう。算数の授業で「公式」を児童に考えさせないで教師が教えてしまうことと同じです。子ども達に発見させる方法として「比較」や「分類」が有効です。複数の例を見せて「どこが違うか」「何が共通しているのか」と考えさせてみてください。
→今回の場合「単元の目標」である「画間均等」に気づけるように工夫します。
Bのような既習事項も取り入れることで既習事項の復習と定着にも繋がります。また、「1時間目」は「単元の目標(画間均等)」だけにしておいて、「既習事項」は「2時間目」に付け加えるという単元構成でも良いです。
→書写は準備、片づけにも時間が必要ですので、クイズ形式にするなどヒントを示しながらテンポよく進めましょう。

D「3つの原則」を一斉に音読する
「3つの原則をみんなで声を合わせて音読しよう。さん、はい。」
○「日」の部分の横画間は同じ
○「生」の部分の横画間は同じ
○「生」の最後の横画は長い

五感にうったえた活動は有効です。しっかり「音読」させましょう。

E「3つの原則」にそって「ためし書き」を自己評価する。

「3つの原則にそって、答え合わせをするよ。
(1)日の部分の横線の間隔が同じ広さに書けている人は手を挙げましょう。
 (単元のねらい・必修事項)
(2)生の部分の横線の間隔が同じ広さに書けている人? 
 (単元のねらい・必修事項)
(3)生の最後の横線が長く書けている人?
 (授業前に準備しておいた既習事項のねらい・別のねらいに変えてもよい)

→「ためし書き」を「原則」に当てはめることで、これまで自分ができていなかった課題に気づかせる。(自己課題の認識)
→黒板にそれぞれのねらいの正解者の人数を書いておく。・・ここでは手本を見ていないため、正解者はわずかのはずである。

F「手本」を配り、「3つの原則」を書き込む。
○「手本」を配る。
「えんぴつを出してください。みんなといっしょに確認した「3つの原則」を気を付けるために手本にえんぴつで書き込みましょう。」

→書写は他教科と違って「ノート」がありません。大切なことや気付きを書き留めることができないので、「手本」をノートとして活用しましょう。
→決して「ためし書き」に書き込みをさせないでください。せっかく書き込んでも「ためし書き」は片づけてしまうからです。

G「3つの原則」を意識して「手本」を見て2枚目を書く。
「1枚目を紙ばさみに片づけたら、2枚目は書き込みに気をつけながら手本を見て書きます。」
「半紙を準備します」「墨をつけて筆先を整えます」「親指は横向き」「肘を高く構えて」「よーい、始め」→書き始めが揃うように指示する。

→机間指導をし、「3つの原則」にしぼってできるだけ多くの子どもを大きな声で短くほめてまわる。「日の横画の間が同じに書けている。すごい!」
→決して「原則」以外のことを注意しない。
→ただし姿勢や執筆は褒めても良い。「親指が横になっていてすばらしい」「肘が良く上がっていて姿勢が良い」
→速く書けた児童は「3つの原則」ができたかどうか「わりばし」等を使って確かめをして待たせる
→速く書けた児童は「手本」と「自分の書いた文字」を比べて「気付いたこと」を書き込ませて待たせる

「あと5人書いています。もう少し待ちます。」「あと2人書いていますもう少し待ちます。」・・・→書き終わりがそろうように指示する。

H2枚目を自己評価する。
「2枚目を3つの原則にそって答え合わせをします。
手を挙げてください。(1)ができた人?・・
1枚目では○人だったが、今度は□人にふえてるぞ。」
「次に(2)ができている人?・・これもふえている。 (3)ができた人? 」
「わずか1枚の練習でずいぶん書けるようになったね。今日の授業のおわりにはどこまで書けるようになるかな楽しみですね。」

→黒板にそれぞれの原則の正解者の人数を書いて、ためし書きの数と比較できるように示す。
→2枚目は3つ原則を意識して、手本を見ているから正解者が増えてあたりまえ、必ず増えるので成果をしっかりとほめて、やる気にさせるのがコツです。
 I練習用紙(パターン1)による練習
「練習用紙を書いてみましょう。」
→練習用紙には大きく分けて2つのパターンがある。「パターン1」は「かご字」と呼ばれるもので、手本の上に半紙をのせ、文字の輪郭をえんぴつでえどったものである。それを人数分刷ればできあがり、すぐにできるが準備出来なかった場合は、授業のその場で手本の上に半紙をのせて子どもたちに自分で作らせてもよい。

※指導書の付録についている場合が多いので確認してみましょう


 J練習用紙(パターン2)による練習
「もう1枚練習用紙を配るから書いてみましょう。」

→「パターン2」は「ほね字」と呼ばれるもので、手本の上に半紙をのせ、えんぴつで画の中心を書いたものである。これも印刷すればすぐ準備できるが、子どもたちに作らせてもよい。
※指導書の付録に練習用紙がついていることもある。

→授業の時間不足の場合はJを省略して、Iのみを使用する
 Kまとめ書きをする。
「今日のまとめ書きをします。まとめ書き用の和紙を配るので、それに1枚だけ書いてみよう。」
「書く前にもう1度今日の3つの原則をみんなで音読して確認しよう。」
「さん、はい。」
五感にうったえた活動は有効です。しっかり「音読」させましょう。

「それでは、まとめ書きをします。」
「半紙を準備します」「墨をつけて筆先を整えます」「親指は横向き」「肘を高く構えて」「よーい、始め」→書き始めが揃うように指示する。

→自分の持っている半紙に書かせてもよいが、練習時と気持ちを少し変え、やる気を出させるために、ちょっとだけ高価な和紙を1箱買って教室に常備しておくと便利です。
→机間指導をし、「3つの原則」にしぼってできるだけ多くの子どもを大きな声で短くほめてまわる。「日の横画の間が同じに書けている。すごい!」
→決して「原則」以外のことを注意しない。
→ただし姿勢や執筆は褒めても良い。「親指が横になっていてすばらしい」「肘が良く上がっていて姿勢が良い」
→速く書けた児童は「3つの原則」ができたかどうか「わりばし」等を使って確かめをして待たせる

「あと5人書いています。もう少し待ちます。」「あと2人書いていますもう少し待ちます。」・・・→書き終わりがそろうように指示する。
 L机の上に試書とまとめ書きを並べて置く。

「初めに書いた『星』とまとめ書きの『星』を並べて机の上に置いてください。」
M「まとめ書き」を自己評価する。
「まとめ書きを3つの観点で答え合わせをするよ。手を挙げてください。(1)ができた人?・・1枚目では○人だったが、今度は□人にふえてるぞ。」
「次に(2)ができている人?・・これもふえている。 (3)ができた人? 」
「ずいぶんできるようになったね」

→黒板にそれぞれのねらいの正解者の人数を書いて、
ためし書きの数と比較する。

N相互評価

(1)隣同士で交換して、原則に沿ってお互いの良くなったところを発表し合う。
(2)机の上に置いたためし書きとまとめ書きの成果を全員で見て回り、一番変化のあった人を見つけさせる。代表になった子どもの「試書き」と「まとめ書き」を黒板に貼って、原則に沿って全体評価する。
 
→評価法については色々な方法があるので授業の残り時間を見ながら(1)(2)どちらかを選択して行う。

O後片づけ
「後かたづけプリントを見ながら片づけを始めましょう。」

2時間目の「硬筆」へつづく・・・・・・・